県の統一地域連携クリニカルパスで脳卒中治療の質向上をねらう

群馬大学医学部附属病院脳卒中・心臓病等総合支援センター

群馬県の脳卒中地域医療連携

大宅
|副センター長|

ご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、脳卒中診療体制の整備に関して群馬県は非常に進んでおり、他県にはない先進的なシステムが作られてきました。このシステムは、前・前橋赤十字病院脳神経外科部長の朝倉健先生らの献身的なご尽力によって構築されたものです。このたび、群馬県下の脳卒中診療体制が今までどのように発足・発展してきたかについて、朝倉先生に全5回のシリーズでご紹介していただくことといたしました。当センターは群馬県内のさまざまな脳卒中診療のネットワークを協力してまいりたいと思います。

【はじめに】
脳卒中は、突然意識が悪くなることや、麻痺が生じる怖い病気です。さらに認知機能障害などの後遺症によって人生が大きく変わることもあります。そして重症な場合には命に関わることもあります。そのため、本人ばかりでなく家族への影響も大変大きく、誰もがなりたくない病気だと思います。

脳卒中治療は、急性期や慢性期などの時期によって治療の分業化が進み、病院間の連携がとても重要になってきました。そこで群馬県での脳卒中医療の地域連携がどのように行われているのかについて、以下の5回シリーズでご説明したいと思います。

前橋赤十字病院脳神経外科顧問
現前橋協立病院
朝倉健先生

前橋赤十字病院脳神経外科顧問
現前橋協立病院
朝倉健先生

  • 【救急隊員や行政も参加するネットワーク】
  • 【脳卒中は予防できる病気です】
  • 【ストローク・バイパスってなに?】
  • 【t-PA治療や血栓回収術で手足が動くようになる】
  • 【県の統一地域連携クリニカルパスで脳卒中治療の質向上をねらう】

 脳卒中の急性期治療である点滴薬や手術が行われた後、治療はリハビリテーションと内服薬による治療がメインとなりますので、近隣のリハビリを主体に行っている病院へ転院となります。そうしないと急性期病院は患者さんがあふれてしまい救急患者を受け入れられなくなるからです。しかしリハビリテーションを行う病院に連絡してもなかなか転院できず、本格的なリハビリテーションが遅れてしまう事態が頻発しました。そこで前橋赤十字病院は2007年から関連するリハビリテーション病院と相談を重ねて「脳卒中地域連携クリニカルパス(地域連携パス)」を作成し2008年から運用を開始しました。クリニカルパスとは医療の工程表で患者さんの状況に応じて治療を標準化するツールであり、地域連携パスはそれを地域の病院間に広げたものです。急性期病院から早急に回復期リハビリテーション病院へ転院することができるようになり、早く本格的リハビリテーションが開始され、その結果早く回復することができるわけです。それに加えて、群馬県で悉皆性をもった脳卒中治療が行えるようになりました。

 群馬脳卒中救急医療ネットワーク(GSEN)は脳卒中地域連携パスを県内共通化する目標を掲げ、徐々に群馬県内の病院の参加が進み、2011年に目標は達成され、群馬県内の病院間はどこでも同じ地域連携パスで転院することができます。12の急性期病院、33のリハビリテーション病院、222の診療所に医師会や群馬県医務課の行政も参加する「群馬脳卒中医療連携の会」が運営しています(図1)。「群馬脳卒中医療連携の会」は地域連携パスのデータを収集して患者さんの転帰などをまとめています。そして、年3回の会合を行い様々な情報交換をしています。また、患者さんやご家族に役立つ脳卒中に関する情報を集めた「ぐんまちゃんの脳卒中ノート」を県の支援で作成し、急性期患者さんにお配りしています(図2)。このノートは病気のことや、再度脳卒中にならないための情報などが書いてあって大変好評をいただいております。

【最後に】
群馬大学医学部附属病院に脳卒中・心臓病等総合支援センターができたことは群馬県民にとって大変喜ばしいことであり、群馬県における脳卒中・心臓病の死亡率低下のためにGSENも最大限の協力を行っていきたいと思います。

図1 脳卒中地域連携クリニカルパスは群馬脳卒中医療連携の会が運営しています 
図2  ぐんまちゃんの脳卒中ノート