令和6年度 特定健診・特定保健指導実践者研修会(循環器病編)

群馬県健康長寿社会づくり推進課が主催の「令和6年 特定健診・特定健康指導実践者研修会(循環器病編)」で、石井センター長・大宅副センター長、下谷管理栄養士(心不全療養指導士)よりお話をさせていただきました。120名近くの方にご聴講いただきました。
以下に要点をまとめました。ご参考にしていただければと思います。

講義Ⅰ「心不全はこんな症状に注意!-心臓病の現状も踏まえて-」

群馬大学医学部附属病院 循環器内科 教授 石井 秀樹
(群馬大学医学部附属病院脳卒中・心臓病等総合支援センター センター長)

・現在、「心不全パンデミック」と言われ、日本で120万人の心不全患者さんがいる。

・心不全の原因として、心筋梗塞などの虚血、心臓弁膜症、心房細動などの不整脈、心筋症などがある。検脈を行うことによって、心房細動が発見できることもある。そのため、CMを使って啓発している。また、心房細動は心原性脳梗塞を起こすこともあるので、診断と治療が非常に重要である。

・心不全と診断されると、がんよりも長生きできない可能性がある。

・一方、心不全治療薬も進歩しており、早期発見治療を行えば、予後改善がかなり期待される。

・心不全症状として、特に以下の4つが重要(群馬心不全連携協議会「心不全管理手帳」に記載あり)。

  1. 急に体重が増える(黄信号)
  2. むくんでくる(黄信号)
  3. 今まで出来ていたことで息が切れる(黄信号)
  4. 寝ると苦しくなり、起きると楽になる(赤信号)

14:40~15:10
講義Ⅱ「健診・保健指導の効果を高める脳卒中の知識」

群馬大学医学部附属病院 脳神経外科 教授 大宅 宗一 先生
(群馬大学医学部附属病院脳卒中・心臓病等総合支援センター 副センター長)

・脳卒中予防の指導効果を高めるに、脳卒中の正しい理解、対象者へのわかりやすい説明が必要である。対象者に、脳卒中における見えないが迫りくるリスクと、予防の必要性を感じてもらう必要がある。

・脳卒中の分類として、虚血性(脳梗塞)と出血性(脳内出血、くも膜下出血)がある

・最新の脳卒中治療として、脳梗塞に対する血管内治療があり、詰まった血管からカテーテルにより血栓除去を行うものがある。これによって、後遺症が非常に軽くなるが、心筋梗塞同様に発症からすぐの治療を行うことが重要である。症状があったらすぐに病院受診することが必要。

・出血性の脳卒中は、高血圧との関連があり、生活習慣の改善(特に塩分制限)、薬物で血圧コントロールを行うことが有効である。

・LDLコレステロール(一般的に「悪玉」コレステロールといわれているもの)が高いと、血管を痛めて硬くなり、特に脳梗塞の原因となる。

・体重と血圧は家庭でも簡単に測定できる。ぜひ日常の健康管理にとりいれていただきたい。

・たばこは、百害あって一利なし。1本すうと11分寿命が縮む。電子タバコにも有害物質は多く含まれている。

・最近のトピックとして、う歯(ムシ歯)と動脈硬化・脳卒中発症との関連が言われている。口腔内環境の改善が必要

・脳ドックを上手に使って、健康寿命を延ばすヒントを得てほしい。

15:15~15:45
講義Ⅲ「脳卒中・心臓病等を防ぐ栄養指導」

群馬大学医学部附属病院 栄養管理室 管理栄養士(日本循環器学会認定心不全療養指導士) 
下谷 幸 先生

特定保健指導で求められるもの:予防・食事療法・改善

・栄養指導については、「怒られるのではないか?」というようなマイナスなイメージを持っている人もいるが、食事療法がもたらす効果(プラスのイメージ)を持ってもらうことが必要である。食事療法では、具体的に以下のような効果が期待される。

・病気を防ぐ

・病気を入り口で止める

・病気を悪化させない

・脳卒中や循環器病について、予防と改善の食事療法

 〇減塩 〇脂質 〇適正な体重管理 〇野菜摂取 〇バランスの良い食事

・日本人の食塩摂取量の推移 塩分摂取目標は男性で7.5ℊ未満、女性で6.5ℊ未満が推奨されており、現状の塩分摂取量から 1日約3ℊ程度の減塩が必要

・日本人の塩分摂取量は1日9.8g(男性10.7g、女性9.1g)(令和5年)であり、高血圧、心臓病、腎臓病の患者さんの目標塩分摂取量は6ℊ未満のため、1日約3ℊ程度の減塩が必要であると考えられる。なお、WHOの食事摂取基準では5g未満と、より厳しい。

・味覚(甘味、苦味、酸味、旨味、塩味)は年齢とともに低下。特に塩味の低下が著しいため、若いうちから薄味になれることが必要。また、栄養士として気を付けていることは、患者さんの気持ちに寄り添うことである。例えば、みそ汁が好きな方にもそのことをふまえた指導が必要である。

味覚が落ちる主な原因として 1.味蕾(みらい)の減少 2.唾液の減少・口腔内の乾燥 3.腎臓病 4.薬の副作用 5.亜鉛や鉄の低下などが言われている。

・野菜の摂取量が近年減少傾向。野菜を食べてもらう意味を説明しないと、行動変容に結びつかない。カリウム、食物繊維により、血圧低下・排塩の効果がある。

・「Dietary Approaches to Stop Hypertension(DASH食)」 は、高血圧を防ぐ食事法。米国でDASH食を2ヶ月続けたところ、最高血圧が平均して11.4mmHg も下がった報告がある。

・食事療法により、適正体重が維持される。

適正エネルギー量(kcal) =目標体重(kg)×エネルギー係数

エネルギー係数 

軽い労作(大部分が座位の性的活動)        25-30 kcal/kg目標体重              

普通の労作(通勤・家事、軽い運動を含む)30-35 kcal/kg目標体重

重い労作(力仕事、活発な運動習慣)              35-kcal/kg目標体重

・効果的な保健指導、栄養指導を行うためには 行動変容ステージの見極めが必要であり、行動変容しやすい環境を作ることが必要。無関心期、関心期、準備期、実行期、維持期があり、各々にアプローチの方法がある。