楽観的な気持ちや笑顔によって、脳卒中や心臓病を予防しよう!

群馬大学医学部附属病院脳卒中・心臓病等総合支援センター

特別コラム

石井
|センター長|

センターホームページ、コラムでも何度かご紹介しておりますように、「心不全パンデミック」が到来しているといわれています。日本で120万人の心不全患者さんがおみえで、年間約8万人が亡くなっている(厚生労働省人口動態統計月報)と報告されております。
ともすれば心不全は、「良性の疾患」と思われていますが、がんよりも予後が悪いという統計もあるくらいです。そこで大事になるのが、早期発見です。群馬大学、前橋市と共同で運動負荷心臓超音波という全国でも先駆的な方法を用いた検討を行い、その成果が英文雑誌に発表されました。その内容について、群馬大学循環器内科湯浅先生にわかりやすく説明いただきました。

 現在の研修医システムにおいて、若手の先生がローテーションで各科を回ることになっています。臨床ばかりでなく、勉強会などで論文を読んで、様々な知見を深めることも重要な研修です。2025年1月に群大病院循環器内科で頑張ってくださった大井薫子先生は、「楽観主義と心血管イベントおよび総死亡との関係(邦題)」(文献)という米国医師会の機関誌に掲載された研究論文を読んで、循環器内科医局員の前で発表してくれました。同論文の結論としては、「楽観主義者は心血管イベントリスクと総死亡率が低い」ということであり、「気持ちの持ちよう」というのは普段の生活でも非常に重要だということを説明してくれました。実際、ネガティブな感情や慢性的なストレス状態が脳卒中や心臓病を引き起こすという検討は今までいくつもあり、逆に明るい気持ちをもったり笑ったりすることは、そのような病気予防にもとても大切なんです。


 循環器病診療に於いて国内有数の実績を誇る榊原記念病院の顧問としておつとめになられている住吉徹哉先生(ちなみに、日本笑い学会会員です)の外来には、「一笑一若 一怒一老」という言葉が貼ってあるそうです。もともと慶応大学ご出身の精神科医である斎藤茂太先生の著書タイトルにあるもののようです。言葉の通り「笑うと若返ります。一方、怒ると年をとります」ということだと思うのですが、この気持ちは日常の生活の中でも取り入れたいですね。
2023年夏に、近畿大学医学部と吉本興業の共同研究で、がん経験者の方がお笑いを鑑賞し続けると、健康関連の生活の質と抗酸化能力、不安、うつなどを改善する効果があることを示しました。これは十分に脳卒中や心臓病を低下させることにもつながると思います。また、笑うことで血糖値が下がる効果を示した研究もありますから、糖尿病など血管を傷つける病気、すなわち脳卒中や心臓病予防にも効果があることがわかります。「幸福だから笑うのではない。笑うから幸福なのだ」という名言をフランスの哲学者アランが残しています。笑顔を作るだけでも十分意味があるとのこと。是非皆さんも心掛けてみては如何でしょうか?

豆知識:アメリカ・アイダホ州ポカテロ市では、厳しい寒さで市民がみけんにシワをよせて暗い顔で歩いているので、市長がシャレで提案したら、採用されたのが「笑顔条例」(1948年8月5日制定)。ニコニコ顔の習慣を身につけるため、毎年8月に「笑顔週間」が設けられ、その間は笑顔でいなければならないそうです。条例には、「不機嫌な顔をしている者は罰せられる」とまで書いてあります。もちろん本当に逮捕されることはないと思いますが(笑)

文献:Alan Rozanski, et al. Association of Optimism With Cardiovascular Events and All-Cause Mortality. JAMA Network Open.2019;2(9):e1912200