SASと脳卒中の関連について

群馬大学医学部附属病院脳卒中・心臓病等総合支援センター

SASコラムシリーズ

石井
センター長

循環器内科高間准教授より、シリーズで睡眠時無呼吸(SAS)についてコラムを書いてもらっておりましたが、今回脳神経外科水野寛之先生にSASと脳卒中の関連について寄稿いただきました。

生活習慣が脳卒中や心臓病などの大きな原因となることは皆さまご承知おきと思いますが、SASもその原因として注目されています。昼間眠くなるような方や、いびきが大きな方は特に注意かと思います。SASについて、群馬大学医学部附属病院脳卒中・心臓病等総合支援センターでも注目して対応しております。

センターを構成する 脳神経外科・内科では、脳卒中に対して、循環器外科では解離性大動脈などについて、循環器内科では急性心筋梗塞や心不全について、24時間365日体制で緊急対応・手術を行える体制を整えております。また、近隣の病院で脳卒中・心臓病をもしもの時に診てもらえるところを予め探しておくのも大事です。

SASと脳卒中の関連について

「最近いびきがひどいと言われた」「昼間にどうしても眠くなる」「夜中に何度も目が覚める」——

そんな症状に心当たりはありませんか?

それ、ただの疲れや年齢のせいではなく睡眠時無呼吸症候群(SAS)という病気かもしれません。

SASは、眠っている間に何度も呼吸が止まってしまう病気で、日常生活にさまざまな影響を及ぼします。しかし実はそれだけではありません。近年の研究では、SASが脳卒中のリスクを高めることがわかってきました。これまでのコラムでも書いてきましたが、脳卒中は、発症後の生活の質に対して極めて大きな影響を与える疾患です。

今回は、SASとはどのような病気か、そして脳卒中とどのような関係があるのか、どんなサインに注意すればいいのか、また、どこで診てもらえるのかなどについてご紹介したいと思います。


脳卒中は、日本人の死亡原因として依然として上位にあり、また、たとえ命が助かったとしても、麻痺や言語障害、認知機能の低下など、重い後遺症が残ることがあります。近年、この脳卒中の発症に関係する新たな危険因子として注目されているのが、SAS(睡眠時無呼吸症候群)です。

SASは、睡眠中に呼吸が何度も止まったり浅くなったりする病気で、熟眠感が得られず日中の強い眠気や集中力低下を来します。さらに、高血圧・糖尿病などの生活習慣病とも深く関係しています。SASの存在が脳卒中の発症リスクを約2倍に高めるとされています。さらに、無症候性の脳梗塞や、再発のリスクも高めることがわかってきており、最新の脳卒中ガイドラインも、SASを治療することによる脳卒中予防の可能性について言及しています。また、SASを持つ脳卒中の患者さんに対して、急性期の治療の一環としてCPAP(シーパップ:持続的陽圧呼吸療法)を導入することも検討されるべきと触れられています。現時点では、SAS治療が脳卒中予防に直接つながるという強いエビデンスは確立しておりませんが、考慮に値する重要な因子であると考えられます。


以下のような症状がある場合は、SASの可能性があります。

  • 家族から「いびき」や「睡眠中の無呼吸」を指摘される
  • 朝起きたときに頭痛がする
  • 日中に強い眠気を感じる
  • 夜間に何度も目が覚める
  • 集中力や記憶力の低下を感じる

こうした症状に心当たりのある方は、一度専門的な評価を受けることをおすすめします。SASは睡眠中の呼吸の問題ですが、その影響は昼間の生活や長期的な健康リスクにまで及ぶ、いわば「静かな危険因子」なのです。


群馬大学医学部附属病院では、SASが疑われる患者さんに対して、睡眠時ポリグラフ検査(簡易検査・精密検査)を行う体制が整っています。脳卒中を契機にSASが発見されることもあり、循環器内科、呼吸器内科、脳神経内科や脳神経外科などの専門診療科と連携しながら対応しています。

また、SASは単独で診断・治療されることもありますが、高血圧、肥満、糖尿病などの背景がある場合、生活習慣の見直しがきわめて重要です。寝酒や喫煙、運動不足も症状を悪化させるため、「脳卒中予防」の一環として、生活習慣を整えることがSASの改善にもつながるのです。


脳卒中は誰にでも起こりうる病気ですが、危険因子を正しく理解し、早めに対処することで、予防できる可能性があります。

SAS(睡眠時無呼吸症候群)のような「見えにくいリスク」に目を向けることが、健康寿命を延ばす鍵になるかもしれません。

「最近ちょっと眠りが浅い気がする…」

そんな小さな気づきが、脳卒中をはじめとした循環器系疾患の予防につながる第一歩になることもあります。

とはいえ、どれだけ気をつけていても、脳卒中はある日突然起こることがあります。

そんな“万が一”のときにも備え、群馬大学医学部附属病院 脳神経外科では、24時間365日体制で緊急対応・手術を行える体制を整えています。

専門医によるチーム医療のもと、迅速かつ的確な対応で、患者さんの命と機能の回復を目指しています。

「予防も、治療も、最後の砦として」

私たちは、皆さまの安心と健康を支えるために、これからも尽力してまいります。