アドバンス・ケア・プランニング(ACP)について
群馬大学医学部附属病院脳卒中・心臓病等総合支援センター
コラム
アドバンス・ケア・プランニング(ACP)という言葉があります。まだ、広くは普及していないと思いますが、これから非常に重要になってきます。人生の最終段階で受ける医療やケアなどについて、あらかじめ患者さん本人、身近な方々(例えばご家族やパートナー)、医療スタッフなどが事前に繰り返し話し合う取り組みです。
日本では、様々な理由からこのような取り組みが他国と比べて遅かったのです、最近急速に広がろうとしています。この度ACPについて、小板橋先生からコラムを書いていただきました。
また、コラムを読んでいただいて興味がわいてきたという方は、「厚生労働省 人生会議」とインターネットで検索していただくと、様々な情報がご覧いただけるかと思いますので、是非参考にしてください。
アドバンス・ケア・プランニング(ACP)について
ACP、人生会議という言葉、ご存じでしょうか。ACPとは「アドバンス・ケア・プランニング」の略で、もしも病気などで「死が間近にせまってきているとき」のことを、家族などと話し合っておくことを指します。「がん」の分野で発展してきたものですが、最近は心臓や血管の病気でも話題に出ることが多くなってきました。このコラムを読んでいただいている方には、まだなじみがないかもしれません。でも国はACPについて現在とても力をいれており、国民の皆さんに周知しようとしています。
2018年に厚生労働省がACPを「人生会議」と呼ぶと決めました。医学の進歩、医療体制の充実により、日本は世界にも誇る長寿社会となりました。しかしその一方で、医療の進歩により、回復の見込みがない状態のひとであっても、寝たきり状態が続いているひとでも、延命処置や生命維持管理装置 (人工呼吸器、人工心肺、血液浄化装置など)をつけて、生命を延伸させることは可能になってきて、このことが新たな社会問題を生んでいます。
超高齢者でも、急に呼吸が止まったり心臓が止まったりしたら、家族はびっくりして救急車を呼んで「助けてください!」と言います。救急隊や医師は、目の前に急変した患者がいて、家族にそういわれたら、懸命に助けるでしょう。助かって元気に自宅に帰れる場合もありますが、高齢者で多くの合併症をもっている人の場合、延命できても意識が完全には戻らず、食事も自分で摂れない状態になることもあります。それが本人も望んでいるような終末期のあり方であればいいのですが、多くの場合はそうではないのではないかという見方もあります。
そこで、そうなる前に、あらかじめ自分の終着点・そのあり方について、家族など身近な大切な人々と話し合っておきましょう、というのがACP・人生会議なのです。
ACPは、もしも心臓が止まった時に心臓マッサージや生命維持管理装置をつけるか、ということを話し合うことではありません。自分が人生でなにを大切にしているのか、最後はどのように迎えたいのかを家族に伝え、もしも自分が意思表示を出せない状況で人生の最期を迎えそうになっても、家族のだれかが、自分の希望を伝えられるようにしておくこと。それがACPなのです。
こういった言われ方をすると、気分が暗くなるかもしれませんが、逆の言い方をするとどうやって生きていきたいかということを考える機会でもあります。その中で、「来年の春は、満開の桜の中で孫の入学式に参加したい」「2度目の大阪万博を見たい」ということを考えて、家族とその意思を共有することもACPを進める過程では、大事なお話になってきます。
もしも心臓病と診断されたら、遠い将来かもしれませんが、突然生死をさまよう状態にならないとも限りません。このようなことは、起こらないに越したことはないですが、準備をしておいて悪いことはないかもしれません。ACPについて、近い方とご家族と考えてみませんか?