睡眠時無呼吸症候群と循環器疾患

群馬大学医学部附属病院脳卒中・心臓病等総合支援センター

コラム 心臓病あれこれ

担当:高間

 睡眠時無呼吸症候群は、睡眠時に無呼吸や呼吸停止、低呼吸になって、昼間に眠くなる或いは体がだるくなるなど、さまざまな問題を引き起こす疾患です。「いびき」が睡眠時無呼吸症候群のサインであると聞かれたことがある方も多いのではないでしょうか?

2003年に新幹線ひかり号の運転手が、睡眠時無呼吸症候群と思われる症状で、運転中に約8分間眠り込み、岡山駅の停止線を通過してしまうという事故を契機として有名になりました(自動列車制御装置という機器がついていて、運転手が寝ていても停止できるところで、新幹線の安全性が言われたのは皮肉なことですね)。

睡眠時無呼吸症候群は閉塞性睡眠時無呼吸症候群と中枢性睡眠時無呼吸症候群に大分されます(図参照)。これら睡眠時無呼吸症候群と循環器疾患についても密接にむすびついています。

循環器疾患にはいわゆる”古典的心血管危険因子”といわれている脂質代謝異常症(悪玉コレステロールや中性脂肪などが高い)、糖尿病、高血圧、たばこなどがあることはよく知られています。最近では、それらに加えて睡眠時無呼吸症候群も、治療してもなかなや改善しない高血圧症、心筋梗塞や狭心症(虚血性心疾患といわれるもの)、心房細動、そして心不全といった循環器疾患の発生と関連し、”新たな心血管危険因子”と考えられるようになりました。

このようなことから、日本循環器学会によって2023年に定められた循環器領域における睡眠呼吸障害の診断・治療に関するガイドラインにおいても、心不全患者さんに対して、できうる限り睡眠時無呼吸症候群があるかどうかを検査して、治療につなげることが推奨されています。私は睡眠時無呼吸症候群を長いこと研究してきましたが、以前の検討で心不全を含めた心臓病のある患者さんに対して睡眠時無呼吸症候群を治療せずに、通常行うような治療のみを行った場合では心血管系イベントが大変多くなることが明らかとなりました。そのため、積極的に睡眠時無呼吸症候群を診断し、必要時にはその治療を行うことを積極的に発信しています。   

先に書いたように睡眠時無呼吸症候群は、循環器疾患が発生する前に診断、治療を行うことが重要です。図に循環器疾患と睡眠時無呼吸症候群の関係について提示します。私見を含みますが、睡眠時無呼吸症候群を放置した場合、循環器疾患が発生するリスクが高まると考えられます。図に示すような悪循環を断ち切るためにも、早期に診断、必要時には治療を開始することが重要と考えます。

以上、睡眠時無呼吸症候群の概論、循環器疾患との関わりについてまとめてみました。これから、診断方法や治療方法、循環器疾患における睡眠時無呼吸症候群診断、治療の重要性、トピックなどについて数回に分けて記載していこうと思いますので是非ご覧ください。

【参考文献】

1. 日本循環器学会. 2023年改訂版循環器領域における睡眠呼吸障害の診断・治療に関するガイドライン, 2023.

2. TakamaN, Kurabayashi M, Influence of untreated sleep-disordered breathing on the long-term prognosis of patients with cardiovascular disease. Am J Cardiol 2009; 103: 730-734.

石井
|センター長|

睡眠時無呼吸症候群について造詣の深い群馬大学循環器内科高間准教授からのコラムです。
昼間に眠くなる方の中には、しっかり検査をすると睡眠時呼吸症候群のこともあり、結構皆さん知らずに過ごされていることも多いそうです。また「いびき」をかく方は、要注意とのこと。
睡眠時も呼吸症候群とは何か、そして注意しないといけないことは何かを5回シリーズでお届けします。