心不全と薬を服用することの重要性
群馬大学医学部附属病院脳卒中・心臓病等総合支援センター
薬剤師からのひとこと

センター長
脳卒中や心臓病を予防することに対して、生活習慣に注意することは皆さんご承知おきのことと思います。そして、もしそのような病気になってしまった場合には、再発しないようにすることがとても大事です。原因になっていること(例えば高血圧や糖尿病、脂質異常症など)に対してもより厳しく対応し、お薬をしっかりと服用することも大事です。
本ホームページでも「心不全パンデミック」の話題をさせていただいておりますが、ぐんまのうしんの柴﨑薬剤師より、心不全に対するお薬のお話を6回シリーズでお届けします。この機会に、心不全に対するお薬の理解を深めていただけると幸甚です。

心不全と薬を服用することの重要性
こんにちは
薬剤師の柴﨑です。
今回から6回シリーズで、心不全で主に使われるお薬の服用目的や注意点についてお話しいたします。心不全では多くのことに気を付けないといけませんが、他の生活上の注意点については「ぐんま心不全健康管理手帳」などをご参照ください。
第一回は、心不全と薬を服用することの重要性についてお話しします。
心臓は全身に血液を送るポンプの役割をしています。心不全は、心臓の機能が悪くなり、十分な血液を全身に巡らせることが出来ない状態になることで、「心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気」と日本循環器学会では定義しました。
全身に血液が十分に巡らないことによる怠さ、手足の冷たさ、また肺などに水が溜まること(「肺うっ血」といいます)による息苦しさ、浮腫(むくみ)などの症状が出ることがあります。

この図は心不全の一般的な経過を表したものです。症状が良くなっても心臓の機能が完全に治ったわけではなく、悪化や改善を繰り返しながら徐々に進行します。減塩や感染対策など生活に気をつけて急激な悪化を防ぎながら心不全と上手くお付き合いしていくことが大切です(減塩については、「栄養士のつぶやき」もご覧ください)。
そのためには、どういったことが急激な悪化に繋がってしまうか知っておく必要があります。急激に心不全が悪化することによる再入院の原因としては、
- 塩分・水分制限が守れていないこと
- 感染症にかかること
- お薬を医師の指示通りに服用出来ていないこと
- 疲れ、ストレス
などがあります。
従って、出されたお薬をしっかりと飲み続けることは急激な悪化を防ぐためにとても大事なことです。以下の図に示すように、約1割強の患者さんが、薬をしっかりと服用しなかったため、心不全が悪化して入院となっています。ですから、ご家族に心不全の薬を服用されている方がお見えの場合には、同居されている方からも注意してもらうことが大事だと言われています。

主に心不全に使われる薬は、
- 心臓を保護する薬
- 症状を軽減して苦痛をやわらげる薬
に分けられます。
心臓の収縮機能の程度によって使うお薬は変わります。心臓の収縮機能が低い場合(心臓の送り出す力、つまりポンプ機能が低いというイメージです)は
- 心臓を保護する薬
を使用します。心臓の収縮機能は保たれているが、心臓の拡張機能が低い場合(心臓が膨らみにくいというイメージです)はSGLT2阻害薬を中心に使用します。
心臓を保護する薬は、簡単に言うと心臓を休めてあげるという効果があります。心臓にも、仕事改革が必要なんです。ただし、今ある症状を大きく改善できるものではないため効果を実感しにくいのが実情です。しかしながら、心不全の悪化を防ぐために大切なお薬で、このようなお薬をしっかり服用することで、飲まない場合と比較して生活の質改善や長生きができることが分かっています。
症状を軽減する薬は、息切れやむくみがある際に使用するため、必ずしも常に使用するわけではありません。

次回からそれぞれのお薬の特徴についてお話していきます。
群馬大学医学部附属病院 薬剤師(日病薬病院薬学認定薬剤師)
柴﨑 由実