いきかたノートの実践
群馬大学医学部附属病院脳卒中・心臓病等総合支援センター
コラム

センター長
ACP第一弾は小板橋紀通先生から書いていただきましたが、第二弾を利根中央病院循環器内科部長 近藤 誠先生から書いていただきました。近藤先生は、実臨床でも「いきかたノート」を使用して、様々な課題に取り組んでおられます。小板橋先生から書いていただい
たACPの基本的内容を基にして、ACPの重要性と臨床での意義について考えていただけるとありがたいと思います。
なお、近藤先生には2025年3月17日に、ぐんまのうしん主催のACP勉強会で講師をお願いしております。

循環器内科
近藤 誠 先生
いきかたノートの実践
利根中央病院 循環器内科 近藤 誠 先生
私たちはいつか必ず人生の終わりを迎えます。そのとき、どのように過ごしていたいかを考えたことはあるでしょうか。「いきかたノート」は、そんな人生の最終章を自分らしく生きるためのツールです。終末期医療においては、患者が自身の価値観や希望を明確にし、それを医療者や家族と共有することが重要です。例えば、「庭の花いじりを続けたい」、「息子には迷惑をかけたくない」といった想いは、患者本人にとってとても重要で、このツールを利用することで医療やケアの選択に想いを反映させることが可能となります。
心不全終末期患者における緩和ケアとAdvance Care Planning (ACP) の重要性
現代医療では命を救うための技術や治療法が進化し心不全診療は発展し続けています。しかしながら、心不全はあらゆる手を尽くしても増悪、軽快を繰り返しながら徐々に増悪し、いずれは終末期を迎える予後の悪い疾患であるため、患者のQOL(生活の質)や死の質に目を向けた緩和ケアの重要性が高まっています。そこで、患者が終末期医療について事前に意思表示を行い、その意向に沿ったケアを実現するためのプロセスであるAdvance Care Planning(ACP)が重要となります。このプロセスでは、医療者と患者、家族がじっくり話し合い、患者の価値観や人生観を共有します。そして話し合いを重ねることで、不要な侵襲的治療を避け、患者が望む形で人生を終えるための選択肢が広がります。「いきかたノート」は、こうしたACPを進めるための実践的なツールです。
当院で経験した重症慢性心不全患者の症例では、患者さんは長い治療の間に「いきかたノート」を用いて繰り返しACPを行い、段階的に緩和ケアを選択して最終的には施設入所を経て病院で息を引き取りました。その過程で多職種チームが連携し、患者と家族の希望を尊重したケアが提供されました。
家族や医療従事者にとって、いきかたノートを活用する意義
人生の最終段階を迎えた患者から聴取した「いきかたノート」を通じて、医療従事者は患者の人生観や価値観を理解し、患者中心のケアを選択できます。また家族も患者の意向を共有することで、患者の想いに寄り添うことができます。その結果として、緩和ケアを行う医療従事者や患者の家族にとって、後悔の少ない選択が可能になります。
おわりに
「いきかたノート」の実践は、患者、家族、医療従事者が互いに尊重し合い、共に未来を考えるプロセスです。患者は人生の最終章をどう過ごしていたいのか、家族や医療従事者は患者にどう寄り添うことができるのか、それらに明確な答えが出ることは少ないかもしれません。しかしながら私は、患者自身とそれに関わる皆が人生の最終章に少しでも後悔のない選択ができるよう願い、より多くの患者に「いきかたノート」を実践していきたいと思っています。