脳梗塞治療の進歩の話
群馬大学医学部附属病院脳卒中・心臓病等総合支援センター
コラム 脳卒中あれこれ
朝晩と日中の気温差が大きくなる、あるいは冬の時期には脳卒中や心臓病、解離性大動脈瘤が多く発生するようになります。
今回、前橋赤十字病院清水先生から、脳梗塞の最新治療について書いていただきました。「Time is money.」という言葉を聞かれたことがある方は多いと思いますが、医療者の中では「Time is brain.」という言葉があるくらい、脳の病気、特に脳卒中は発症してから治療までの時間を急ぐ病気です。
10月29日世界脳卒中デーには上毛新聞に、当センター大宅教授から脳卒中に対して何を気をつけるかについても書いていただいた記事がありますので、併せてご覧ください。
脳梗塞治療の進歩の話
手足の麻痺や言葉の障害を残すことの多い脳卒中は、皆がなりたくない病気の代表的なものですね。脳梗塞は、脳卒中の中で最も頻度が高いものです。この脳梗塞治療の最近の進歩についてお伝えします。
脳梗塞はいろいろな原因で脳の血管が詰まり、脳の一部が壊死してしまう病気です。壊死に至るまでには時間的な猶予があるため、その時間内に血管の詰まりが解消されると脳梗塞にならずに治せます。
代表的な治療法として、t-PA(組織型プラスミノゲン・アクティベーター)という薬の静脈注射があります。発症から4.5時間以内に投与することで、血管の詰まった部位の血栓(血の塊)を溶かす効果があります1)。このt-PA治療は2005年から日本で行えるようになり、多くの患者さんが救われていますが、いくつかの課題も明らかになりました。
その一つは、脳の太い血管が詰まっていると効果が得られにくいことです。太い血管を詰まらせる大きな血栓はt-PAだけでは溶かしきれないことが多いのです。一方で、このような太い血管が詰まった患者さんでは重症の脳梗塞が多く、亡くなられたり重い後遺症を残ったりすることが多く、より効果的な治療法が待ち望まれていました。
そんな中、2015年に画期的な治療法の効果が示されました2)。それが血栓回収療法です。脳の太い血管に詰まっている血栓を、血管の中からカテーテル(細い治療用の管)を用いてつかまえて取り除きます。血栓をつかまえるところでは、ステント型の器具や吸引用カテーテルが使用されます。
この血栓回収療法は、発症から6時間以内で内頚動脈やその先の血管が閉塞している患者さんが当初の対象でしたが、その後の研究で、より広いタイプの脳梗塞患者さんにも効果があることがわかってきました3)。まず、発症から6時間を過ぎていても、画像診断を行ってまだ救える部位(脳梗塞が完成していない部位)が残っていれば発症から24時間程度であれば効果が得られることが分かりました。そして、脳底動脈という脳幹などを栄養する血管にも効果があることが示されました。本治療は、その効果のある患者さんが数年ごとに増えており進歩の著しい分野です。
群馬県で、この血栓回収療法を行える病院は、脳神経外科があり、治療の資格がある医師が勤務する13の病院です(表1 2024年7月時点)。救急隊は、血栓回収療法が必要と見込まれる患者さんは、そのような病院を選定して搬送するように教育されています。また、それらの病院では来院された方が少しでも早い時間で治療が行えるような体制を整えています。なりたくない病気ですが、その不安を少しでも取り除けるように努力しているのです。
【参考文献】
1) Hacke W et al. Thrombolysis with alteplase 3 to 4.5 hours after acute ischemic stroke. N Engl J Med. 359:1317-1329, 2008
2) Goyal M et al. Endovascular thrombectomy after large-vessel ischaemic stroke: a meta-analysis of individual patient data from five randomised trials. Lancet.;387:1723-1731, 2016.
3) 日本脳卒中学会 脳卒中ガイドライン委員会 編. 脳卒中治療ガイドライン2021[改訂2023] pp 60-63
【表1】
前橋 群馬大学医学部附属病院、前橋赤十字病院、老年病研究所附属病院
高崎・安中 高崎総合医療センター、黒沢病院
藤岡 公立藤岡病院
沼田 沼田脳神経外科循環器科病院
伊勢崎 伊勢崎佐波医師会病院、伊勢崎市民病院、美原記念病院
桐生 桐生厚生総合病院
太田・館林 公立館林厚生病院、太田記念病院