『認知症と脳卒中・心臓病の密接な関係』
群馬大学医学部附属病院脳卒中・心臓病等総合支援センター
コラム 脳卒中あれこれ
内閣府が公表している平成29年度高齢者白書などのデータでは、平成24年(2012年)は認知症患者数が約460万人、高齢者人口の15%という割合でした。その後の厚労省調査では、2022年の65歳以上の高齢者3603万人のうちの認知症および軽度認知障害(MCI)は各々443万人(12.3%)、559万人(15.5%)であり、合計すると27.8%と大変大きな数字が発表されました。認知症はわが国だけでなく世界的にも注目されています。WHOの推計では毎年1,000万人近く、3秒に1人が新たに認知症になるとのこと。
今回、脳神経内科塚越先生に認知症の予防に大事な生活習慣病対策について、コラムを書いていただきました。ここに記載されていることは認知症だけでなく、脳卒中や心臓病を予防することとほとんど重なっています。是非、日常で取り入れられることを生活の中に入れてください!
『認知症と脳卒中・心臓病の密接な関係』
群馬大学脳神経内科 塚越設貴
【はじめに】
「認知症」とは、様々な脳の疾患により、脳の神経細胞の働きが徐々に低下し、認知機能(記憶、判断力など)が低下して日常生活に支障をきたした状態のことをいいます。認知症の原因となる脳の疾患はさまざまです。最も多いのはアルツハイマー型認知症ですが、次に多い疾患は血管性認知症です。そこで今回は、脳卒中・心臓病と認知症の密接な関係について最新の論文をもとに解説していきたいと思います。
【認知症のリスク因子について】
2024年、医学的に大変権威のある雑誌Lancet誌において報告された注目すべき話題として、認知症のリスク因子として14因子が特定されましたというものがあります(1)。 それらの因子は、高血圧、糖尿病、LDLコレステロール値の上昇、喫煙、過度の飲酒、肥満、頭部外傷、運動不足、教育不足、難聴、うつ病、社会的孤立、大気汚染と視力喪失です。以前のコラムの「脳卒中は予防可能な病気である」の中で朝倉先生が紹介されていた脳卒中予防十か条の項目に非常によく似ていますのでピンときた方もいらっしゃるかもしれません。実はこれらのリスク因子は脳卒中や心臓病のリスク因子と重複するものばかりなのです。14因子の中でも認知症と関連が強いとされているのは難聴と高LDLコレステロール値で、これらの因子を予防することでそれぞれ認知症の発症をなんと7%ずつ予防できると推定されています。高LDLコレステロール値は、動脈硬化を進行させ、脳卒中や心臓病の発症リスクとしても広く知られています。脳卒中・心臓病の予防はすなわち認知症の予防といってもいいほど密接な関係を持っています。(図1)
【予防において重要なこと】
それら特定されたリスク因子を予防するための健康的なライフスタイルは、認知症のリスクを低下させるだけでなく、認知症の発症をも遅らせる可能性があります。言い換えれば、将来認知症を発症するにしても、認知症患者として生きる期間を短くできる可能性があるということです。ただし、予防における重要なこととして、認知症のリスクを減らすための行動は早期に開始し、生涯にわたって継続する必要があるとも述べられています。実は認知症と脳卒中は寝たきりの原因疾患の第1位と第2位でもあります。生涯にわたって健康的なライフスタイルを維持・継続することは簡単なことではありませんが、この場で紹介したリスク因子は認知症だけでなく、脳卒中・心臓病の予防、さらには寝たきりの予防にもつながりますので、健康長寿を目指すうえでは一石三鳥のコスパのよい予防法といえると思います。この記事が健康を意識したライフスタイルを継続するためのいいきっかけとなったら幸いです。
【参考文献】
Livingston G ら。Dementia prevention, intervention, and care: 2024 report of the Lancet standing Commission. Lancet. 2024;404:572-628.