先天性心疾患の成人への移行期医療体制
群馬大学医学部附属病院脳卒中・心臓病等総合支援センター
コラム 心臓病あれこれ
先天性心疾患の成人への移行期医療体制
「先天性心疾患」は、生まれたときから心臓や血管に異常があることをいいます。そのため、心臓が正常に働かなかったり、体に血液が十分に送れない状態になったりします。
1980年代後半から90年代にかけてて進歩した先天性心疾患に対する外科治療により幼少期に亡くなることはほとんど無くなり、いまでは90%以上の先天性心疾患患者が、成人になるようになりました。このことは、子供だった先天性心疾患患者さんが、大人になり、中年になり、老人になる時代が到来しているということを意味します。生まれてくる子供の1%は先天性心疾患といわれていて、現在成人で45-50万人くらいとされます。今後、先天性心疾患を持つ方すべてが成人になると、成人60-70万人が先天性心疾患を持っているという時代がやってくると考えられます。
先天性心疾患は、心房中隔欠損症や心室中隔欠損症のような心臓の中に穴が開いているだけの比較的単純なものから、三尖弁閉鎖症や単心室のように、複雑で重篤な疾患まで多彩です。手術によって根治され薬もいらずに通常の生活になっている方もいますが、疾患によっては手術の後も継続した内服治療や運動制限が必要な方もいらっしゃいます。そして何度も手術を繰り返す必要がある方もいます。そのため、継続した通院、医療福祉サービスが必要になることがあります。
しかし患者さんが小児科から大人の内科に受診される科を移行していくのは、思っているほど簡単なことではありません。先天性心疾患の患者さんが成人をむかえられるようになった数が急に増えてきたのは、ここ10数年のことで、大人の内科がまだ重篤な先天性心疾患患者の術後管理に慣れているとは言えないからです。一方、成人となった先天性心疾患患者が、40歳を越えると生活習慣病になって、糖尿病やコレステロール上昇などにより、心筋梗塞、脳卒中をおこす時代になってきました。子供にはそのような生活習慣病が少ないため、大人の内科と違って小児科はその管理に慣れてはいません。そのため、大人になっても小児科で見続けるのは患者にとっても医療者にとっても、良くないことだと思われます。先天性心疾患をもっている患者さんは、どんどん大人になっていきます。小児科→内科への移行期医療を進めていかなければいけません。
移行期医療の妨げとなっているのは医療者側だけの問題ではなく、患者さんおよびその家族が、大人の診療科へ移行するにあたって不安を抱えているからかもしれません。精神運動発達遅滞がある方や、てんかんなどの心疾患以外の多くの合併症を持っている方の場合には、特に不安を感じられることと思います。このような場合には、診療科がそろっている総合病院で、受け入れる体制を整えていかないといけないのですが、一方で、風邪や腹痛などで大病院は気軽に受診できない場合も多いのが実際かと思います。地域の内科医と総合病院との連携を密に行うことを成人先天性心疾患領域で構築していかないといけません、
先天性心疾患に関する移行期医療体制においては、小児科、循環器内科との連携に加えて、診療科や病院組織の垣根を越えた連携が、問題解決には必要になっていきます。当センターでも、不安を抱えて見える方のお役に立ちたいと思っております。心配なことがありましたら、ぜひご相談いただければと思います。
本センターでは、脳卒中・循環器疾患の相談を受け入れています。他県でも比較的多くの相談を受けているのが「移行期医療」です。多くに方には、聞きなれない言葉だと思います。でも、循環器疾患分野では今トピックとなりつつあります。
「小児科から大人の診療科への引継ぎが必要な疾患」が、どうして今注目されているのか含めて是非読んでください。「先天性心疾患」だけではない問題が見えてくると思います。
ぐんま のうしん 用語集
用語 | 解説 |
先天性心疾患 | 生まれつき心臓や血管に異常がある状態のことです。血液循環の異常が起こり、心臓に負担がかかります。 |
移行期医療 | 小児期から成人期に向かう中で、医療の対応を段階的に変える体制のことです。小児科から内科への引継ぎなどが含まれます。 |
心房中隔欠損症 | 心臓の右心房と左心房の間にある心房中隔に穴がある状態です。子供の頃に自然閉鎖することもありますが、閉鎖しなかった場合には血液の流れが異常となり、心臓や肺に負担がかかってくることがあります。 |
心室中隔欠損症 | 心臓の右心室と左心室の間にある心室中隔に穴がある状態です。子供の頃に自然閉鎖することもありますが、閉鎖しなかった場合には血液の流れが異常となり、心臓や肺に負担がかかってくることがあります。 |
三尖弁閉鎖症 | 右心房と右心室の間にある弁です。静脈から帰ってきた血は右心房から三尖弁を通って右心室、その後肺に流れていきます。心臓の三尖弁の閉じが悪い状態を三尖弁閉鎖不全症といいますが、右心室から右心房に血液の流れが逆流するため、ひどくなると心臓に負担がかかり、むくみなど右心不全といわれる状態になることがあります。 |
単心室 | 心室が一つしかない状態です。全身に血液を供給する負担が心臓にかかります。 |
合併症 | 特定の病気に伴って発症する追加の症状や病気のことです。先天性心疾患患者が他の病気(てんかんなど)を併発する場合があります。 |
循環器内科 | 心臓や血管に関する病気を専門に扱う内科の部門です。心筋梗塞や心臓弁膜症、不整脈、先天性心疾患などの治療と管理を行います。 |
生活習慣病 | 長年の生活習慣が原因で発症する病気です。糖尿病、高血圧、脂質代謝異常(コレステロール値が高いことなど)、慢性腎臓病などが含まれ、動脈硬化の原因となります。 成人期の先天性心疾患患者さんでも注意が必要です。 |
心筋梗塞 | 心臓の冠動脈が詰まることなどで、心筋(心臓の筋肉)に酸素が届かずに壊死する状態です。もっと簡単に言うと、心臓の筋肉が死んでしまう病気です。発症すると、心臓の痛みや呼吸困難などが生じ、命に関わることもあります。芸能人などでも心筋梗塞で亡くなられている方を聞かれたことがあるかもしれませんね。虚血性心疾患の代表的なものとなります。 |
脳卒中 | 脳の血管が詰まったり破れたりすることで血流が途絶え、脳の組織が損傷する病気です。脳梗塞、脳出血、くも膜下出血の総称です。また、一過性脳虚血発作も脳卒中の一歩手前ですから直ちに診断して治療をすることが大事です。 |
内服治療 | 薬を口から服用する治療法です。疾患の管理や症状の緩和を目的に行われます。 |
医療福祉サービス | 医療だけでなく福祉を含めた支援サービスです。特に障害や慢性疾患の患者に対し、医療費補助や生活支援などのサービスが提供されます。 |