心不全の治療に使用する薬について
群馬大学医学部附属病院脳卒中・心臓病等総合支援センター
薬剤師からのひとこと

センター長
新たに、「薬剤師からのひとこと」というシリーズを開始します。
生活習慣の改善とともに、お薬を服用することは患者さんご自身でやっていただかないといけないことです。しっかりお薬を服用する(のむ)コツや、飲みにくい時にはどうするか、またあっては困るのですが災害などが生じた際にも役に立つお薬の情報など、当センターの薬剤師がコラムを書いてくれます。

心不全の治療に使用する薬について
こんにちは。薬剤師の柴﨑です。
心不全の薬は主に①心臓を保護する薬と②症状を軽減して苦痛をやわらげる薬に分けられます。

今回は、①心臓を保護する薬のうちの3つのお薬についてお話します。
まずはアンジオテンシン変換酵素阻害薬、アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬についてお話します。
分かりやすいように「心臓」をぐんまのうしん君、「体」を荷物に例えます。だんだん心臓[秀石1] が疲れると(=心不全)、荷物を運ぶのが困難となります。アンジオテンシン変換酵素阻害薬、アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬、アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬は血圧を上げるホルモンの働きを抑えることで、血圧を下げ、心臓を守ります。




心不全ではレニンアンジオテンシン、アルドステロンといったホルモンが過剰に分泌され、体内の水分を増やす働きや、それにより血圧が上がることで心臓に負担をかけます。ACE阻害薬・アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬はこれらのホルモンを抑え、血圧を下げることで心臓の負担をやわらげ、心臓を保護する効果があります。ACE阻害薬には、ブラジキニンと言われる様々な臓器保護効果や血管拡張効果のある物質の分解を抑制する効果もあります。
副作用としては、低血圧、血中カリウム値の上昇があります。また、これらの薬には腎臓の保護効果もあるのですが、投与初期に腎機能が低下することがありますので、採血などで確認することが必要です。また、ACE阻害薬の副作用としては上記に加えて空咳が知られています。


次に新しい薬であるアンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬です。
通常、体には利尿作用や血管拡張作用をもつホルモン(ANP,BNPといわれるナトリウム利尿ペプチド)がありますが、これがネプリライシンと呼ばれる酵素によって分解されてしまいます。ネプリライシンを抑えることで、そのような血管を広げ心臓を守るホルモンの分解を防ぐことで、その働きを強める作用があります。アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬の効果もあり、心臓の保護効果や血圧降圧作用があります(なお、各々の場合で投与の方法が異なります)。通常少ない量から開始し、症状を見ながら薬の量を調節して行きます。ACE阻害薬から切り替えて使用する場合には、副作用を避けるため一定時間 間隔をあけてから服用を開始する必要がありますので、必ず先生からの指示を守りましょう。
いかがでしたでしょうか?お薬についてご不明なことはかかりつけの先生や、薬剤師さんに是非聞いてください。次回以降、心臓を保護する薬である③MRA、④SGLT2阻害薬、⑤β遮断薬、症状を軽減して苦痛をやわらげる薬である⑥強心薬+利尿薬の順に説明していきます。普段のお薬に対する知識が深まれればうれしいです。